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第15話 落下と抱擁③

Author: 花柳響
last update Last Updated: 2025-12-30 10:00:29
 足場が消えた。

 そう感じた瞬間にはもう、視界が天地ごとひっくり返っていた。

 喉の奥で悲鳴が凍りつく。内臓がフワリと浮き上がる気持ちの悪い浮遊感。

 コンクリートの床に叩きつけられる。

 その確信に、私はぎゅっと目を閉じて歯を食いしばった。骨が砕ける音と激痛を覚悟して。

 けれど。

「……っぐ!」

 私の身体を貫いたのは、冷たい石の硬さじゃなかった。

 耳元で、押し殺したような低い獣の唸り声が響く。同時に、強引に横合いから攫われるような衝撃。

 ダンッ、と誰かが床を強く踏みしめる音がして、落下が唐突に止まる。

 背中と膝の裏に食い込む、熱い鉄の棒のような感触。

 肺から空気が強制的に吐き出され、私は何が起きたのか分からないまま、浅い呼吸を繰り返した。

 痛くない。

 恐る恐る目を開ける。

 そこには、鼻先が触れそうなほどの至近距離に、天道征也の顔があった。

「……馬鹿か、お前は」

 地を這うような低い声。

 けれど、それはいつもの冷徹な響きじゃない。走り抜けてきたせいで息が上がり、言葉の端々が荒く震えている。

「せ、いや……?」

 帰宅したばかりなんだろうか。完璧に整えられていたはずのスリーピースのスーツには深い皺が寄り、ネクタイも僅かに曲がっている。

 乱れた前髪の隙間から覗く瞳は、今にも私を射殺しそうなほど鋭く、それでいて、どこか焦燥に血走っていた。

 彼が私を抱きとめているんだと気づくまで、数秒かかった。いわゆるお姫様抱っこの形。

 けれど、そんな甘いものじゃない。私を支える彼の腕は、骨が軋むほどの馬鹿力で私を締め上げている。

 薄いシャツ越しに、ドラムのような心音が伝わってきた。

 ドクン、ドクン、と痛いほどに脈打つリズム。早鐘を打つ私の心臓と重なって、境目が分からなくなる。

「何をしてる。……俺の目の届く場所で、勝手に傷つくことなんて許さないと言っただろう」

 後頭部を支える大きな掌が、熱い。

 わずかに指先が震えているのが分かって、息が止まりそうになった。

 この人が、震えてる?

 怒りじゃない。これは、動揺だ。彼が私なんかのために、本気で焦っている。

「ご、めんなさい……あの、薔薇が……」

「薔薇?」

 征也の眉間に、深い皺が刻まれる。

 逃げ場のない腕の中。彼の首筋に血管が浮き出て
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